大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 平成10年(ソ)1号 決定 1998年6月30日

抗告人

甲野花子

右代理人弁護士

茂木博男

主文

一  原決定を取り消す。

二  抗告人の本件控訴は適法と認める。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「即時抗告の申立」と題する書面写し、同「即時抗告の理由」と題する書面写し並びに同平成一〇年三月二五日付け、同月二七日付け及び同年五月二五日付け各準備書面写しのとおりである。

二  日立簡易裁判所平成九年(ハ)第二三〇号建物収去土地明渡請求事件(以下「基本事件」という。)の一件記録及び当裁判所による審尋の全趣旨によれば、基本事件の送達手続及び訴訟経過として次の事実が認められる。

1  申立外A(以下「A」という。)は、平成九年一〇月二〇日、抗告人を被告として日立簡易裁判所(以下「原裁判所」という。)に基本事件に係る訴えを提起した。

2  原裁判所は、同月二七日、第一回口頭弁論期日を平成一〇年一月二九日午前一一時と定め、抗告人宛に訴状副本、答弁書提出催告状及び右指定に係る第一回口頭弁論期日呼出状を特別送達の方法で発送し、右郵便物は、平成九年一〇月二八日、抗告人の息子で当時抗告人から抗告人宅の一階部分を間借りして眼鏡店を経営していた申立外甲野一郎が同所で受領した。

3  原判決裁判所は、平成一〇年一月二九日の基本事件第一回口頭弁論期日において、抗告人が出頭しないことから、出頭したAの訴訟代理人に訴状を陳述させた上、弁論を終結し、同年二月一二日の基本事件第二回口頭弁論期日においてAの請求を認容する判決を言い渡した。

4  原裁判所は、同月一三日、右判決正本(以下「本件判決正本」という。)を抗告人宛に特別送達の方法で発送したが、同月二六日、高萩郵便局から、同月一四日配達の際に抗告人不在で配達できないため同局に留置したが留置期間も経過したことを理由に返送されてきたことから(なお、本件記録上、右郵便物が返送された後、原裁判所が不送達になったことをA若しくはその訴訟代理人に連絡して、不送達の理由の確認、住所や就業場所を調査するよう促したことを示す記録はない。)、同月二六日、抗告人宅を宛先にして本件判決正本を高萩郵便局の書留郵便に付して送達した。

5  抗告人は、同年三月二日、Aから右判決のことを聞いて、初めて右判決の存在を知るに至り、高萩郵便局に赴いて右郵便を受け取った。

6  抗告人は、同月一三日に抗告代理人のもとへ相談に出向き、抗告代理人は、即日、原裁判所に控訴状を提出した。

7  原裁判所は、本件判決正本については同年二月二六日に抗告人に送達されたことになるから(つまり、控訴期間は同年三月一二日に満了する。)、抗告人の控訴は、控訴期間経過後のものであり、右期間経過について抗告人の責に帰すべからざる事由も窺われないとして、民事訴訟法二八七条により右控訴を却下する旨の決定をした。

三  以上の各認定事実を前提として本件判決正本の書留郵便に付する送達の適法性について検討する。

本件判決正本の送達は、現行の民事訴訟法(平成八年法律第一〇九号)の施行(平成一〇年一月一日)後に最初にする送達であるから、同法附則七条二項により同法一〇四条三項の適用がない場合である。このような場合に書留郵便に付する送達を行うには、住所等において受送達者にもその代人にも出会わなかったため通常の交付送達はもとより補充送達も差置送達もできなかった場合で、かつ、就業場所が判明しないか若しくは判明していても同所における送達も不奏功となったことが必要となるところ(同法一〇七条一項)、書留郵便に付する送達は、受送達者に到達したか否かを問わず、その発送時に送達の効果が擬制されるものであるから、送達不能及び就業場所が判明しないこと等の認定は、送達書類の種別に応じて、それ相応の資料に基づいて慎重になされるべきであり、また、その認定の根拠となる資料についても記録上明確にしておく必要があるというべきである。そして、本件においては、右送達に係る送達書類が判決正本という重要書類であったのであるから、原裁判所の担当書記官をしては、少なくとも、本件判決正本の特別送達が返送されてきた際にA若しくはその訴訟代理人に不送達となったことを連絡して、郵便局が抗告人について「不在」としたことの裏付け調査を促すべきであり、その調査結果を報告書等によって提出するよう求めて、記録上もこの点を明確にしておく必要があったというべきである(東京高等裁判所平成三年(ネ)第五五三号・同四年二月一〇日判決・判例タイムズ七八七号二六二頁以下、東京地方裁判所昭和六三年(ソ)第一四号・同年九月二一日決定・判例時報一二九二号一一〇頁以下各参照。)。

したがって、原裁判所が右のような処置を講ずることなく、書留郵便に付する送達を実施したのは違法な手続であったといわざるを得ない。

四  そうすると、本件判決正本の送達の効力は、抗告人が高萩郵便局で本件判決正本を現実に受領した平成一〇年三月二日に発生したものと解すべきであるから(名古屋高等裁判所昭和四三年(ネ)第九七八号・同四四年一〇月三一日判決・判例タイムズ二四二号一八四頁以下参照。)、控訴期間の満了日は同月一六日ということになり、同月一三日になされた本件控訴は控訴期間を遵守した適法なものというべきである。

五  以上のとおりであって、本件控訴を却下した原決定は不当であり本件抗告は理由があるから、原決定を取り消すこととし、本件控訴は適法と認める。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官鈴木航兒 裁判官中野信也 裁判官植村幹男)

別紙即時抗告の申立<省略>

別紙即時抗告の理由<省略>

別紙準備書面<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例